講座再編、病院移転という大きな組織改変が済み、ホームページをリニューアルするタイミングでしたので、「教室のロゴ」を作ろう、ということになりました。白衣やTシャツにプリントできるようなシンプルなデザイン、が担当に抜擢したS君への依頼でした。彼は劇団での俳優経験があり、そのセンスと人脈を期待しました。S君を中心に、いわてのシンボルって何だろう、ということになり、やはり「あれ」だけは絶対外せない、というのです。啄木さんに「ふるさとの山」と謳われ、岩手医大のロゴにも、かつて我々のホームページにも使わせて頂いてきた、そう「岩手山」です。
でも、ちょっと待てよ。いわてに所縁がない方、岩手山をご存じですか?津軽の岩木山は「帰って来〜いよ〜♫」、会津磐梯山は「宝のお山〜よ♪」と誰もが口ずさめるし、蔵王や鳥海山の名は必ず耳にするはずです。周囲の県には名山とのカップリングしたイメージがあるのに、いわてにおける「岩手山」は、名前のインパクトに乏しいのか、県民の主張が控えめすぎたのか、そこまで知られていないのではないでしょうか?僕は知りませんでした。
日本中にご当地富士があります。自分は富士山を見て育ったので「富士」と呼ぶからには、あの優美で対称的でなだらかな稜線が要ります。蝦夷富士、榛名富士、薩摩富士、、、はまさに「富士」体型ですが、岩手山を「南部富士」と呼ぶことには少なからず抵抗がありました。この山は見る場所によって山容が全く異なり、同じ山とは信じがたいほど「非対称」だからです。(正確には独立峰ではなく複数の火山体だそうですから尚更ですね)そこを気にして「片方」だけと強調し、「南部片富士」って呼ぶ人が多いようです(控えめなのが、いわての人らしい)。実は奇跡的に富士様に見える角度もあって、それが啄木さんの育った渋民村からの景色です。いわての北西部にどんと大きなスフィンクスが横たわっている感じで、真正面以外は、横顔の後ろに必ず長い胴体が続きます。
ブラタモリを欠かさず見ていますが、磐梯山の回で「山体崩壊」を知りました。そんなことが起こるのか、久しぶりに衝撃的な知識に出会いました。それ以来、山をみるとこの形って山体崩壊?って思えて仕方ありません。通勤時に眺める岩手山にも、ここもあそこも崩れたんじゃない、って箇所があります。気になって調べてみましたが、国内の成層火山の中で、大規模な山体崩壊の回数は岩手山が最も多いそうです(少なくとも7回)。岩手山は実に「雄々しい」山で、過去に爆発的な噴火を何回も繰り返し、崩れては盛り上がり、それを繰り返すうちにあの形になったのでした。噴火はちょっと心配ですが、おかげで麓には素敵な秘湯が点在します。要するに、岩手山は比類無い成り立ちの活火山で、周囲に多くの恵みをもたらしてきたとともに、崩れてなお這い上がるという不屈さが、いわてのシンボルに相応しかったのです。あの独特の形状の美しさが生まれた背景に、とっても納得しました。
さて、この岩手山をどうやってロゴに落とし込むか、です。S君と秘書Oがプロのイラストレーターと候補を絞り込み、教室総選挙で決まりました。循環器内科のロゴですから、心臓に山をどう絡めるか、がポイントになりますが、「心房と心室が岩手山で仕切られる」、という斬新なアイデアに纏まりました。要するに、「僧帽弁と三尖弁が岩手山の稜線」、と言うことになります。山の成り立ちから、ちょっとやそっとでは「へこたれない」心臓に見えませんか?S君の今回の働きに味を占め、次は本業、すなわち自作自演ビデオの教室紹介、への期待が高まります。スルーしないでね。