バブル崩壊後のゴルフ場は、どこも経営がピンチで、自分が所属するコースも経営が変わりました。ところが、あまり知られてないようですが、2020年はゴルフ場の倒産数が過去最低だったそうです。様々な行動の制限を受け、出張などの仕事が減り、密にならない屋外で精一杯気晴らししたい、そんなゴルファーが増えているのでしょう。さらに最近、ゴルフのハーフセット・クラブがよく売れているそうです。これはきっと、はじめて挑戦をする人まで増えていることを示唆しているでしょう。
ゴルフはかつて、おやじ臭いイメージが強かったように思いますし、ゴルフ場もコンペの誘致に一生懸命でした。週末まで職場のメンバーと一緒、さらに飲み会まで、となれば、若者が敬遠するのもよく分かります。ところが、コロナ禍への対応でスループレイが増え、会員でなくてもネットでお一人様ゴルフの予約ができる。結果として、未曾有の災難に適応しながら、ゴルフ場の経営を難しくしてきた「慣習」が何だったのかを浮き彫りにし、起死回生の作戦をゴルフ業界全体が打っている、そんな昨今でしょう。
女子プロは、黄金やプラチナ世代の台頭で人気が高まり、デシャンボーでPGAも盛り上がり、遼君までマッチョになってしまいました。うちの教室員にも、デシャンボーを意識している飛ばし屋がいて、明らかに上半身が変わりました。そして、ついに松山選手もやってくれました。テレビやネットで連日ゴルフの話題が出て、さらに若者や女性をコースで見かけるようになりました。ゴルフ好きとしては、この流れがさらに発展し、この素敵なスポーツを楽しむ方が少しでも多くなればと思います。
日本のコースのグリーンのほとんどは「ベント」という洋芝です。この芝は、暑さに弱く手入れがとても大変で夏枯れを免れず、ほとんどのコースでは、フェアウエイには日本固有の「野」芝や「高麗」芝を採用しています。この日本固有の芝は、根が深く葉も強くボールが浮き打ちやすいのですが、反対に寒さに弱く冬は茶色く枯れ、とても難しくなります。柴犬、和猫、カモシカ、日本猿、さらには日本人の風貌にいたるまで、どこか共通した日本らしさがありますよね。言ってみればこの野芝にも同じような「和のたたずまい」があります。芝生の色によって季節を感じ、クラブ選択を変えるのです。動植物も長い間、同じ空気を吸い、同じ気候で過ごすうちに、きっとその風土に合った同じような特徴をもつ。これはこれで味わい深いラウンドになります。
ところが、いわてのコースの芝には驚かされます。いわてにはフェアウエイまで洋芝を採用している欧米型のコースが珍しくありません。冬枯れしないので、春の雪解け後のコースは既に鮮やかな緑色で、絨毯の上を歩いているようにフカフカです。ボールは沈みがちになるので、アイアンで打ち込まないと上手く打てないのですが、浅い根ごとワラジ状に芝が飛んでいきます。ナイスショットのあと、前方に飛んだターフをディボット痕に戻すときは、何とも言えない快感を味わえます。東北には、日本人離れした色白の美人が多いと思いますが、ゴルフコースの洋芝の頻度と、偶然なのか必然なのか相関があるような気がしてなりません。ちなみに、沖縄は「バミューダ」芝などのさらに頑丈な芝が使われていて、ラフ(深く伸ばしたゾーン)にボールが入ると、出すのも大変、とても難しいです。ハワイやタイのそれも、バミューダやティフトンが多いと思います。
止まってるボールを打って何処が面白いんだ、スノッブな感じも相まって、ゴルフなんか絶対するものか、学生時代はそう思っていました。ところが30歳の春のある日、勤務先の病院の先輩に、「循環器に入ったんだからOBコンペに参加しないとダメだよ。週末のコンペに参加でいいよね」と言われ、閉店間際のホームセンターに慌てて連れて行かれ、スポルディングのゴルフクラブセットを買ってきました。もちろん練習など全くせず、ルールも分からずコースデビューし、使う度にグリップのビニルカバーを剥がす有様でした。当然、右へ左へとひたすら走り、ボールを探した記憶があります。144も叩いたなかに、奇跡的に1ホールだけナイスショットでパーがあるものです。この一回の成功体験で知った快感をまた味わいたい本能と、それ以外の下手くそなプレイが悔しすぎたことが向上心に火をつけ、次こそは、とだんだんはまっていくわけです。夢中になるときや物は、案外そんなものですよね。それから20年しても、今でも「次こそは」の繰り返しです。
ゴルフを始めて間もない頃に、同僚と米国オーランドの学会に参加することになりました。この同僚が大学ゴルフ部の出身で、自分の師匠だったわけですが、ゴルフの本場オーランドでラウンドをしよう、と言うことになりました。そこで、自分がコースに電話予約をする、ということになりました。ネット予約がない時代、ゴルフをしたければ自力で電話するしか無かったわけです。慣れない国際電話で、やりとりをします。なぜか、受話器の向こうは、「ティータイム」をどうする?と繰り返します。「ティータイムって・・・ノー、ノー、ノット ハブ ティー。ウィー ウォント プレイ ゴルフ オンリー!!」このやりとりの繰り返しです。あまりの堂々巡りにさすがにこちらも頭にきて、「日本人だからって馬鹿にして、お茶まで飲ませさらにぼったくるつもりか!」3分ほどの問答で先方もイライラが最高潮となり、ある言葉に強いアクセントをつけ言いました。「ティー アップ タイム!!」たかがupという単語1つでしたが、ようやく全貌が理解できました。
その後アメリカに住み、ゴルフのスタート時間をtee timeと言うことを知りました。teaとteeに発音の違いがあるのさえ分かりませんが、素敵な場所でお茶をするのと、これからフェアウエイに歩き出すのは、どちらも特別な時間であることに変わりありません。想像するに、ちょっとお茶目な英国人が、お茶を飲む時間になぞらえて、これからゴルフをする時間を名付けたに違いないと、自分は勝手に信じています。当医局のオフィシャルスポーツは、冬はスキーで夏はゴルフです。このエッセイを読んでいただく方に、岩手医大の循環器に入ろうか、と迷う学生さんや若い先生もいると思いますが、様々な患者さんは当然のこと、仕事だけでは無く、恵まれたいわての自然を相手にしたスポーツも大切にしています。
雫石ゴルフ場から網張スキー場を望む