概要・対象
高齢化や食生活の欧米化などの生活習慣の変化により、全身性の動脈硬化性疾患が増加しています。動脈硬化とは、動脈の壁が肥厚して、硬くなって正常の血管構造が破壊されて、血管の働きが悪くなる状態をいいます。 心臓を栄養する冠動脈に狭窄や閉塞をきたす疾患である狭心症や心筋梗塞の他にも、末梢血管疾患(PAD: Peripheral Artery Disease)も増加の一途を辿っています。 動脈硬化性疾患は、基本的に動脈硬化の予防と進行を抑えることが重要で、定期的な運動を、食事療法、禁煙などの生活習慣の改善に加え血圧、脂質、糖質などの管理が必要です。しかしながら、動脈硬化が進行した場合に、冠動脈疾患や脳血管疾患、下肢血管疾患などを重複して合併することが多くあります。 近年、心血管疾患の発症を抑制するには、冠動脈だけではなく、頭頚部や腎臓、下肢動脈病変などの全身性動脈硬化疾患を包括的に管理することが重要であるといわれています。当科では、心臓だけでなく全身の血管に対する動脈硬化性疾患の治療にも力をいれています。 動脈硬化が進行し、症候性の血管狭窄・閉塞をきたした場合、血行再建が必要となることがあります。血行再建の方法には、カテーテル治療によるもの、外科的手術によるものがあります。 心臓を養う冠動脈以外の血管に対するカテーテル治療をEVT: Endovascular therapyといいます。当院では末梢血管疾患に対するカテーテル治療も積極的に行っています。 対象疾患は、下肢閉塞性動脈硬化症や腎動脈狭窄症、鎖骨下動脈狭窄症などです。
下肢閉塞性動脈硬化症
足の血管が、動脈硬化により狭窄や閉塞をきたして、血流が悪くなる疾患です。 血流が悪くなって、下肢への栄養や酸素を送ることができなくなることにより様々な症状が出現します。 下肢の運動でだるさや重苦しさ、痛みなどが起こり歩行を困難にします。足が冷たい、痛い、足の皮膚の色が悪い、下肢に傷ができた時に傷が治りにくいなどの症状はこの疾患の可能性があります。さらに重症化すると、重症下肢虚血(CLI: Critical limb ischemia)といって、皮膚に潰瘍や壊疽をきたします。 糖尿病患者さんや血液透析患者さんでは、下肢閉塞性動脈硬化症がより増悪したCLIに至ることがあります。CLIに至ると、下肢の痛みや組織欠損を引き起こすため、日常生活に大きな制限が生じます。また、創部から感染が進行して全身性炎症反応を引き起こし、生命を脅かす可能性があります。CLIは集学的治療が必要で、多職種によるチーム医療が必要となります。当院では循環器内科医、皮膚科・形成外科医、透析医や糖尿病医など他科にまたがる連携をとり、また皮膚・排泄ケア看護師、糖尿病認定看護師や透析認定看護師などのコメディカルとも協力して院内での定期カンファランスによる情報を共有し、治療にあたっています。
腎動脈性狭窄症
腎臓は、尿の排泄による全身の水分調整や老廃物の体外への排出、血圧の調節を行っている臓器です。腎動脈が狭くなり、腎臓への血流が不足するとこれらの働きに支障を生じます。腎動脈狭窄の原因の多くが、動脈硬化によるものです。若年の方で動脈硬化によらない線維筋性異形成によるものがあります。腎動脈が高度の狭窄をきたすことにより、腎血管性高血圧、腎機能障害、心不全の急性増悪を起こすことがあります。
鎖骨下動脈狭窄症
頭や腕を栄養する鎖骨の下方にある鎖骨下動脈にも動脈硬化によって狭窄をきたすことがあります。腕を使ったときにだるくなったり、盗血症候群といって腕から頸部の後ろにつながる血管の血流が不足すると、左手を使用したときにめまいがおきたり、目の前が真っ暗になるといった症状が出ることがあります。 これらの疾患に対する治療は、循環器内科医、放射線科医、心臓血管外科医などによる血管カンファレンスで討議し、治療方針を決定しています。
当院実績
メッセージ
心臓を含めた全身の動脈硬化性疾患を包括的に管理・治療することで健康維持の一助になれるよう努めます。 特に、血行不良による『足病』は、生活の質を落とし、時には生命をも脅かすことがあります。足病の予防・早期発見、治療に努めます。