ほとんどの時間をいわてで過ごすようになり、もうすぐ一年です。昨年の今頃は暢気にスペインに出張に出かけていたことを思うと、コロナは自分のライフスタイルを180度近く変えました。

雪量の多い今冬は、朝晩の運転で緊張の連続です。でも、ウインタースポーツに挑戦すれば、バラ色の冬です。今年の八幡平は雪質がとても安定し、バーンもよく締まっています。そこは安比や下倉といった極パウダーのウインターリゾートが広がる、スキーヤー垂涎の地なのです。かくいう僕も冬はもちろん、春のドラゴンアイから紅葉の松川渓谷に至るまで、一年を通じて八幡平の魅力に触れることができました。振り返ると、この時間はとても良質でした。このようなショートトリップだけでなく、田舎暮らしを求める人の移住先としても八幡平は人気が高く、前回紹介した雫石と甲乙つけがたい。何れも大自然に温泉、その上おいしい食材に恵まれ、北の贅沢な暮らしを約束します。魅了された県外の方々が移り住んでくることをとても理解できます。

地元のレストラン、ショップ、銭湯にまで、「ハチクラ」なる小冊子が置かれています。「八幡平をもっと楽しむフリーマガジン」と銘打ち、商工会が刊行する無料の情報誌ですが、コンテンツ選定から、紹介文、写真、表紙に至るまで、とてもセンスが良いです。まちの魅力を明るく広報しよう、地元の有志メンバーが盛り上がる雰囲気まで伝わってきます。これを片手に八幡平の店巡りをするだけで、週末を大いに楽しめます。

アスピーテラインをドライブすると、そこかしこに坂上田村麻呂の伝説が残り、地名の由来だと言う人もいます。ところで、「八幡平」ってちゃんと読めますか?いわての人は笑うに違いありませんが、県外の方の中には「はちまんぺい」とか「やはただいら」と読む方もいませんか?確か自分も怪しかったです。正解は「はちまんたい」ですが、「平」を「たい」と読むのは、少々無理がありますよね。でも東北では、田代平(たしろたい)のように読む場所を時々見かけます。同じように地域独特の読み方をもつ漢字として思いつくのは、九州・沖縄の「原」ですね。田原坂の戦いから「ばる」を知り、西都原、桃原や東国原と歳を経る度に様々な「ばる」に出会いました。地名人名の地域限定の読み方はとても面白く、民族史レベルで遡れば、何らかの理由にたどり着くはずです。

「原」と「平」という漢字について考えていたら、この組み合わせの有名人を思い出してしまいました。クイズ番組で恐ろしいほどの正答率を誇った漫画家の「はらたいら」さんです。伝説の番組クイズダービーの「はらたいらに3000点」は堅実な勝負の代名詞で、嘉門タツオさんの替え唄メロディー2で、京都大原三千院にもじられる程、格言になっていました。対照的に、散々賭けに負け、なけなしのポイントを全てつぎ込む「はらたいらに全部」は、もはやこの人に賭けるしかない、納得の最後の勝負でした。

少し本業の話しをすると、岩手医大の循環器内科は、いわてや東北の診療の「最後の砦」としての役割を担う覚悟で、皆で頑張って参りました。堅実な医療を確実に提供することを社是としますが、時には緊急や他院で手を出せない難しい手術で、様々なものを預けていただかないと先に進めない場面もあります。「ここで助からなければ仕方無い」、患者さんやご家族にそう思っていただかないとはじまらない、決して容易ではないやりとりが生まれます。このような信頼関係を築き維持するには、われわれはプロフェッショナルとして継続的に精進し、常に最新の状態に上書きし、そして謙虚な姿勢を忘れなてはいけないことを、医局員が皆、肝に銘じなければなりません。節目の10話の連載は、このメッセージで締めたいと思います。

これからももうしばらく、僕が感じる「いわての魅力」を、皆さんに伝えて参ります。

ザイラー⇒セカンドゲレンデ連絡路に立ち、早朝の雲海を望む